第5章 モデルさんと海常高校
息を切らしながら体育館に戻ったはいいものの、
私が探しているものはどこにもない。
海常についてからの自分の行動を思い出しながら
その道を辿って探していく。
最後にやってきたのは水道。
心当たりはここが最後で、半ば諦めながらも辺りを見回す。
たしかここでカバンをおいて中身を整理したんだよね……。
「あっ!!」
体育倉庫だろうか、小さな建物に隠れるようにして置かれたクリーム色の紙袋を視界に捉え駆け寄った。
すぐに中を確認して、ほっと息を吐く。
「よかった……中身も無事だ…………」
ガラガラガラガラ……
「……ん?」
台車を押すような音に振り返ると、自転車をこぐ一人の男子。
ん?自転車の後ろ…………。
目を凝らしてみると自転車の後ろにはリアカーが。
……リアカー!?
海常の制服ではない学ラン姿で、しかも自転車の後ろにはリアカーを取り付けている彼。
その異様な姿を思わず凝視してしまう。
ところがどっこい。
彼は私に気がついていない様子で、
必死で自転車を漕ぎながら水道の方へと進んでいく。
チリンチリンチリンチリン!!!
自転車のベルの音に反応して、建物の影から水道の方を覗く。
「緑間てめぇ!!渋滞で捕まったら一人で先行きやがって!!なんか超恥ずかしいだろうが!!!」
自転車を漕ぎながら叫んでいる彼の視線の先には
涼太ともう一人。
自転車に乗っている彼と同じ学ランで、緑色の髪の毛に眼鏡。テーピングがぐるぐるに巻かれた左手にはカエルのおもちゃ。
……へ、変な人だ…………。
緑間と呼ばれた彼は、涼太に向かって一言二言話したあと、自転車をこいでいた人とジャンケンをした。
カエルのおもちゃを持っていた緑間って人が勝ったようで、リアカーに乗り、優雅に足を組んでいる。
一方、汗だくで未だに息が荒い黒髪の彼は、
ぶつぶつと文句を言いながらも自転車をこぎはじめ、
ガラガラとリアカーをひきながら帰って行った。
いろいろびっくりすることが多くて
リアカーが走っていった方を呆然と見つめる。
「奏っち……?」