第9章 来る
「ただいま」
家の玄関で逢坂くんが言う。
「あっ、逢坂くん! ハンバーグ、後は焼くだけだよ」
「じゃあ焼いて。腹減った」
「うん」
私は張り切ってエプロンを着ける。
「あっ、メイド服のほうがよかった? 汚れちゃうといけないから、とりあえず普通の格好なんだけど…」
「ん? あぁ…いいよ…。そのままで」
「そっか」
…
「おっ、このサラダ、セロリが入ってる」
付け合わせのサラダを食べて、彼が言う。
「うん! 今日ピクルス漬けたの。その残り。ピクルスは2、3日経ったら酢が落ち着いて美味しくなると思う。また来てもらえるとうれしいな…」
私は彼の顔をチラッと見る。
「来るよ」
彼が優しく微笑む。
うれしい。
「サキは料理上手だね」
彼が褒めてくれる。
「ふふ…ありがとう。でも逢坂くん、どうしてまた急に私の名前呼びすて?」
「なんだか君のお父さんみたいな気分だからだよ」
「うちのお父さん、サキちゃんって言うけどね」
「…あっそう」
「ご飯とお味噌汁おかわりいる?」
「ちょうだい」
「はーい」