• テキストサイズ

境界の先

第8章 撮る


彼の腕と身体にぎゅっと包まれてる。

その上から彼が掛け布団をかける。

あったかくて…やわらかくて…いい匂いがする。

「おやすみ」

目を閉じて、彼がささやく。

私は彼の顔をそっと見上げる。

「ん? まだ寝たくないの?」

「あっ…ううん…」

私はあわてて目を閉じる。

「物足りない?」

彼は意地悪っぽくささやき、私の身体をそっと撫でる。

「ちっ、違うっ…」

私はぎゅっと目を閉じる。

「ふふ、サキちゃん」

「うん…?」

彼の呼びかけに、またそっと目を開ける。

「お父さん帰ってくるの来月だっけ?」

「うん」

「もし、本当にサキちゃんが…その…死ぬにしてもさ、もう少し後にしたら?
お父さんが気の毒だよ。海外にいるときに、娘が自殺したなんて聞いたら…さ」

「うん…」

私の目から涙が少しこぼれてしまう。

「ときどきこうやって見張りにくるよ。ちゃんと生きてるかどうか」

「うん…逢坂くん…」

「うん?」

「ハンバーグ好き?」

「ハンバーグ? 好きだけど…?」

「今度作るね。豚の生姜焼きは?」

「好きだよ」

「うん」

私は目を閉じて、美味しいハンバーグの作り方に思いを馳せる。

/ 98ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp