第3章 話す
「君が出してくれたジュース。あれ、睡眠薬でも入ってたのかい?」
「うん。睡眠薬入りジュース。美味しかった?」
「ふっ、美味しかったよ。全然気付かなかったなぁ」
「ふふふ…」
私たちは和やかに笑いあう。
「君、どうやって薬を手に入れたんだ?」
「ネットで知り合った人に売ってもらったの」
隠す必要もないので、私は本当のことを話す。
「それって男?」
「そうだよ」
「会って受け取ったのか? 何か変なことされなかったか?」
「キスされた。ふふっ」
私はちょっと自虐的に笑う。
「もったいない」
彼が少し強い口調で吐き捨てる。
「僕に頼んでくれたなら、そんなことしなくても、もっと上手い方法で手に入れられたのに」
「…私が頼んだら手に入れてくれた?」
「まぁ…事情によるけど」
「好きな人を一晩拘束したいから」
「まず、そっちを止めるな…」
「でしょ? ふふっ。いいじゃん、キスくらい。減るもんじゃなし」
「君は自分の価値がわかってないのか? たかが薬のために…。明らかに払い過ぎだろ」
あきれたふうに彼が言う。
「価値なんて…私に価値なんてないよ。それにキスなら中学のときにしちゃってるから別にいいの」
「中学のとき…それの相手は誰なんだ?」
「彼氏だよ。一応」
私の答えに、彼はなぜか少し安心したような顔をする。
そしてこんな軽口を言う。
「彼氏か。君は中学のときからモテてたんだな」
「別にモテないよ」
私は口を尖らせて不満を表現する。