第4章 夢かうつつか?
「最後に、機械の誤作動の増加です」
言いながら、菊は心の底から困り果てた顔をした。
ハイテク国家と呼ばれる日本において、それは大きな痛手だろう。
「その前に、2000年問題をご存知ですか?」
「……恐怖の大魔王とかノストラダムスとかですか?」
「いえそうではなく……」
菊は言いよどみ、口をモゴモゴさせた。
どう説明しようか逡巡しているようだ。かわいい。
「グレゴリオ歴、つまり私たちが今使っている“太陽歴2000年”に、コンピューターがオーバーフローを起こす、という問題です」
「おーばーふろー?」
「コンピューターが、表現できる桁を越えることです」
……えーと……
「ものすごく簡単に言いますが、計算機で『99999999×99999999』とするとエラーになりますよね?」
頷く私。
「機械が表示できる桁をこえてしまってますから、Errorになります。数字の桁が多すぎて表示できずError表示になる、これがオーバーフローです」
「なるほど……」
「ゲーム風に言うと、数値のカウンターストップ――カンストです」
「なるほど!!」
わかりやすい例に感動を覚えた。さすが我らが本田さん。
「……と言っても、私自身もあまり理解できていないので、この例えが真に正しいかは保証しかねます。すみません」
申し訳なさそうに菊がつけ足した。なんだかこちらが申し訳なくなってしまう。
「それで、2000というのがオーバーフローを引き起こし、コンピューターが2000年を1900年と間違えるそうです」
つまり、2000年になった瞬間、2000をErrorと表示するかわりに、1900と表示するってことかな?
「なので当時は電子機器が誤作動すると騒がれ、2000年のその瞬間に備えて、国家的な対策が講じられました」
「こっ国家的!?」
驚きに声をあげずにはいられなかった。
それって“ガチ”ということじゃないか!
「断水、停電、金融システムの機能停止、ミサイルの誤発射まで想定されました」
「みみみみさいるぅっ!!?」
飛び上がり腰を抜かしそうになる。我が耳を疑った。
それ本当に笑えないよ!! たしかお隣さん二人が核持ってましたよね!?
追憶に浸るように、菊のまなざしは遠くを見つめていた。
口元には“もはや笑うしかない”笑みが浮かんでいる。