第36章 --.信号:符号間干渉
拳はかたく握りしめられ、瞳には氷点下の憤怒が張りついている。
ギルベルトの立っている場所からは、ある部屋の窓が見下ろせる。
その部屋の窓には、ギルベルトのよく知る人物の背中が映っていた。
――その窓の奥、今は“眠っている”彼の腕も。
物言わぬ背中と腕に、静かな怒りがギルベルトの脳内を侵攻していく。
「――お前の本当の目的は、なんなんだ」
捻り出された声はかすれていた。
イオンは薄く笑みを浮かべ、地平線に目を向ける。
さも愉快そうな色彩が、その目に宿っていた。
「もうそろそろ最後だもんね、気づいちゃうかな?
……でも、余計だな。
君が第一にやるべきことはなにか考えて」
「……っ!」
にっこりと笑んだイオンに、ギルベルトは言葉を詰まらせた。
その脅迫が、ギルベルトにとってどんなに重いか、ほかでもない彼自身がよくわかっていた。
沈黙するギルベルトから視線を外し、イオンは眼下に広がる街並みを見下ろす。
あくびが出るほど平和な景色は、まもなく夜に包まれようとしていた。
「“本当になにが起きているのか”なんて、誰も知らないんだから」
to be continued.