第4章 夢かうつつか?
「つぎに、物体の不自然な場所移動です」
これがまた、よくわからない。
「暫定的に、消えたところを“消失点”、消えたものが再び現れたところを“再帰点”と呼んでいます」
なんだか仰々しい用語が出てきた。
数学的な響きで、頭が痛い。
「そのどちらにも、不可思議な電磁波が計測されます。しかし公子さんの現れた地点では、それがなかったので……」
「だから、私がその異変で移動してきたのではないと、わかったんですね」
菊が頷いた。
わかるような、わからないような……。
それを察知したのか、ゆっくり菊は話しだす。
「要は、ものが勝手になくなり、勝手に違うところからでてくる、ということです」
「勝手に……」
「ええ。私も同人――いえ本などがなくなっていて困っているんです」
とても真剣な表情。
彼にとっていかに重大な問題かがわかる。
けれどまだ、その大変さが実感できない。
「想像してください」
パッとしない表情の私に、菊が眉をよせて苦々しく言った。
「アメリカの国家機密文書が、ロシアにでも移動したら……」
「――ッッッ!!」
ぎゃぁぁぁと轟音レベルの絶叫を、息とともに飲みこむ。
それはその……ひ、非常に世界がご愁傷様ですね……。
「ですから、皆さん戦々恐々としておられます」
「よく、わかりました」
素晴らしく最悪な例えに、頷くばかりだった。
つまり、テレポーテーションのようなことが起きているらしい。
それに電磁波というキーワードも気になる。
「そのせいか、治安が悪くなったりしている国もあります」
菊が付けたした言葉に、考えを改めた。
この異変にかこつけた犯罪が、容易に想像できる。
致命的な“移動”が起こる前に、なんとかしなければならない。
――二人が無理するわけか。