第4章 夢かうつつか?
「……お疲れ様でした」
それしか、言えなかった。
「まぁ結果としては大きな問題は発生しませんでしたが」
「へ? あ、そうなんですか」
菊はケロッといつもの表情に戻った。
気の抜けた返事が私の口をつく。
少し拍子抜けしてしまった。
何事もなかったならそれが一番だが。
けど、その問題とどう関係があるのかしら?
「話を戻しますね。2000年問題は2000年にしか起き得ません」
そりゃそうだ。
「しかし現在、2000年問題に酷似した出来事が起きています」
「えぇっ!?」
「一定の範囲で、断続的にオーバーフロー“のようなもの”が起きて、誤作動を起こさせているのです」
オーバーフロー
えーと“桁あふれ”が例えば東京都だけとかで、ある日急に起こり、止み、また起こる、ってこと?
「そんなのありえるんですか? それじゃまるで――」
なぜだろう、言いごもる自分の声は、微かに震えていた。
寒気がふらりと、背中に触れる。
今まで聞いてきた話から、そんな事態を理解できなかった。
理屈に合わない。
オーバーフローが起こったり止んだりする?
なにそれ。まるで――
「――人為的に、引き起こされてるみたいじゃないですか」
「……」
菊はなにも言わない。
私を見据える瞳はただ、深い闇色をしていた。
「詳しい原因はまだ不明です。ひょっとしたら、より深刻と言われている2038年問題と絡んでいるかもしれませんし、逆に年問題とは無関係かもしれません。しかし既に負傷者が出ています。死亡者が出るのも、時間の問題でしょう」
「なっ――!?」
二の句が継げない。
淡々とした菊の口調が、かえって彼の焦りを感じさせた。
誤作動で死亡者が出る可能性のあるもの。
病院、飛行機、新幹線、いくらでもある。
なのにまだそれがいないことは、不幸中の幸いなのだろう。
頬を冷たい汗が伝った。
オーバーフローを起こすほどの技術を持ち、愉快犯のごとく人々を弄ぶ誰か。
その誰かが、この世界のどこかにいるかもしれない……なんて。
、、
「これが、3つの確定事項です」