第23章 消失のための再帰点より
この空気をどうにかしたく、あてもなく積んである本から一冊を取り出す。
沈んだ雰囲気の中、ページを手で遊ばせていた
科学系の辞典なのか、カラーの図や小難しい数式が満載だ。
“超ひも理論”、“核融合”など名前だけはよく見る単語もある。
“タイムマシンは可能か?”といったコラムもあった。
案外大衆向けなのかもしれない。
図だけをパラパラ見ていると――ふと、その手がとまる。
同じページを見続ける私に気づいたのか、ギルが本を覗きこんできた。
ギルは別段変わった様子はなく、
「あぁ、アッペルフェルドの猫か。有名だよな」
と、言った。
ページを見ると、少々見知った絵が載っている。
箱に閉じ込められた猫。
そばにあるドクロマークの危険物。
時間の経過“after”を示す矢印の先の、もうひとつの図。
そこには、半身が生きていて、半身が死んでいるよう描かれている猫がいた。
文章も軽く流し読みしてみる。
『…アッペルフェルドの猫とは、物理学者ハインリヒ・アッペルフェルドが提唱した、量子論に関する思考実験の名称である…』
「アッペルフェルド、って言いましたよね?」
ギルは「あぁ」と短く肯定した。
私がなにを疑問としているのか、わかっていないようだった。
『…この箱の蓋をしめてから、1時間後に蓋をあけて観測したとき、猫が生きている確率は50%、死んでいる確率も50%である。
したがって、この猫は、生きている状態と死んでいる状態が1:1で重なりあっている、と解釈しなければならない。』
、、、、、
「だってこれ
、、、、、、、、、、
シュレディンガーの猫じゃないですか」