第23章 消失のための再帰点より
私が指さしたのは、
「RF音響効果?」
そんな単語だった。
内容はというと、電磁波が脳に直接作用し、行動の中断や失神を引き起こす、というものだ。
すでに動物実験で確認されているが、電磁波の強さが安全基準をこえてしまうらしい。
「電磁波が行動を左右するとか、マンガみたいだよね」
フランシスの言葉に頷きながら、ふと思い出したようにアントーニョが言う。
「こういう話もあるで。
アメリカで、めっちゃ太った女の人が食欲を減らすため、脳に“食欲減らしや~!”ってプログラムした、電極を埋めこむ手術をしたんやて」
なんつーアメリカンなダイナミックなダイエット(物理)を……
「頭蓋開いたのな」
「そういうこと言わないで下さい!」
ギルをたしなめるが、ケセセセと笑われただけだった。
「結果は?」
フランシスがうながす。
「成功。食欲はびっくりするくらいなくなって、体重も落ちて、今や食事は栄養補給みたいな、義務的なもんになったんやて」
ギルがヒューと口笛を吹く。
すごいと思うが、副作用とか大丈夫なのだろうか。
案の定、明るい親分の笑顔に影がさす(笑顔のまま)。
「けどな、手術前の彼女は明るくて活発な人柄やったのに、手術後は1日中テレビの前で、ぼーっとしてるようになってもうた」
「えええっ!?」
「女の人には娘がいてな、ずっと手術に反対しとってん。しかも電極は、手術後もオンオフできるんや。当然オフにして、何もなかったにしようと思うやろ? せやけど女の人はオフにしないねん」
「人格が変わっちまったのか」
「つまりそういうことやな」
アントーニョが重々しく頷いた。
その唇が一旦とじたあと、ゆっくりひらく。
「さらに恐ろしいことはな、この手術を受けたのは3人なんや。けど、成功例としてメディアにでたのは彼女だけ」
「成功、ねぇ」
フランシスが皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「……他の2人はどうなったんやろな?」
空気がず~んと重くなる。
アントーニョの言い方に、その悲劇を囁くような声色に、私たち3人は黙り込んだ。