第3章 名前
ーーー夜、弔猿の寝床は断崖絶壁に空いた穴。大きな弔猿にとって蜜柑が二つ頭に乗っかるくらいの隙間があく高さだが寝床としてとても気に入っている。
弔猿は藁などで作ったベットで入り口に背を向けて丸まった。
弔「…おい」
ニ「えっ、私ですか?」
背を向けたまま弔猿は喋り続けた
弔「あまりそっちにいくでない。そこから落ちたら人間は生きてはいまい。まったく、人間は弱いくせにちょろちょろ動く…落ちるなよ」
ニ「はい……ぁっ、あの弔猿さん」
弔「…………なんだ」
とても長い間が空いた。不機嫌そうな声にニエはビクリと体に力が入った
ニ「いえっ、何でも…ごめんなさい」
弔「昼間は体調が優れん…一々話しかけるでないわ」
ニ「…ごめんなさい」
ニエは仕方なく、危ないと言われた崖近くに生えていた草をブチブチと引っこ抜きはじめた。
弔猿に聞こえないように小さな声で独り言を始めた
ニ「名前…呼んでくれるわけないか…まぁ、今までもそうだったし…ニエは生かされているんだから欲張っちゃダメだよね。そもそも弔猿さんら目が目当てであって…(私じゃない…)」
…この名前だって本当の名前かどうかすら…
ニ「まっ、そんな名前なら呼ばれなくてもいいや」
ニエは草を引っこ抜くのをやめて、ゆっくりと立ち上がった
弔「……おい」
ニ「えっ、あっ!はいっ…!」
ズルッ!
ニ「あっ」
ニエは寝たと思っていた弔猿の声に驚き、振り返りざまに足を滑らせ崖から落ちた
弔「ニエっ!!」