第1章 君に手向ける
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強い風が吹き止めば、公園に残ったのは銀時ただ一人。手には山ほどあったはずの紙束が無くなり、古びた画が一枚だけある。黄ばんだ紙に、色褪せた赤いインクでタイトルは「桃太郎」と書かれていた。恐らく小夜の祖父が描いたものなのだろう。手描きの絵と字が時代を感じさせる。画を眺める銀時の双眸には、呆れと寂しさが表れていた。
「ったく、やっと成仏しやがった。俺はジャンプの死神代行じゃねーっての。」
銀時は画を持ちながら近くのベンチに置いておいた花束を取り、公園を出た。少し道を進めば、道ばたに花束や風車といった供え物が山積みになっている場所がある。銀時は先ほど公園から走り去って行った子供達が置いて行った風車の横に、自前で持ってきた花を共に置いた。
「これでやっと、アンタに花束やれる。」
二週間。銀時は二週間もの間、毎日手向けの花を買い続けていた。それは二週間前に事故死した小夜に贈るための花だった。結局その十四日間も買い続けた花を供えられなかったのだが、それにも理由がある。
いつものように紙芝居の道具と共に小夜は公園へと向かっていた。そしていつものように物語を話し、いつものように子供達に駄菓子をあげ、いつものように子供達とふれ合うはずだった。けれどその数々の「いつもの」は決して起こる事なく、小夜は暴走したトラックに撥ねられ、帰らぬ人となったのだ。
事故があった次の日、銀時は知らせを聞いて花を持って事件の現場へ向かったのだ。しかし、小夜が死んだ事を受け入れたくなかったのだろう。公園を通り過ぎた場所だと耳にしてはいたが、その前に小夜と仲良くなった公園へ向う。いつものように公園に行けば、また彼女に会えるかもしれない。そんな馬鹿な考えで銀時は公園に入った。