第1章 君に手向ける
だが、いざ公園に入れば目を疑う光景が広がっていた。そこには、小夜がいたのだ。いつものように拍子木を鳴らし、子供達に呼び集めようとしていた。
そうか、死んでなかったのだ。とんだデマに引っかかってしまった。
そのまま脳裏でそうか、そうかと納得する。鬼ごっこをしている子供達が走り回る中で、銀時は足軽に進んだ。けれど違和感が銀時の足を止める。子供は誰一人、小夜の呼びかけに応えなかったのだ。必死に呼びかける小夜の姿が、急に彼女の「死」に現実味を帯びさせる。
小夜は死んでいる事に気付いていない。
その事実が銀時の胸に重くのしかかる。思えば、銀時は霊感が強い。幽霊旅館に行った時も「スタンド」と称した数々の霊を見たし、操りもした。なら未だこの世に残る小夜の霊も見えて当然なのかもしれない。何とも言えない気持ちになる。己の死に気付いていない小夜を静かに成仏させる方法はないのだろうか。
そう悩んでいる内、小夜は寂しそうな顔をしていた。その表情を見た瞬間、銀時は花束を放って「いつものように」小夜の語りを聞きに行くしかなかった。
そして成仏の出来ない小夜の為に何をすれば良いのか分からず、銀時はただただ公園に足を運ぶようになる。せめて小夜が必要以上に寂しい想いをしないように、と。手向けの花も念のため、欠かさず用意しておいた。自分の死を自覚していない小夜に渡すつもりは毛頭なかったが、いつか成仏した時の為にと銀時は献花を持ち歩いた。そんな日々の中、何もせずにいたら俗にいう「地縛霊」になってしまうかと恐れていたが、小夜が自分から成仏した事に安心する。
自分で紙芝居師として潮時だと判断し、自分で紙芝居師を止める事を決断する。その「決断」こそ、彼女が成仏するのに必要だった要素だったのかもしれない。それが小夜にとって一番良い逝き方だったのなら、それで良い。最後の最後で銀時の是と言う答えも後押しになったのだろう。綺麗な笑顔をした小夜を見送れた。