第1章 君に手向ける
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「……そして桃太郎はおじいさんとおばあさんと三人で幸せに暮らしましたとさ。おしまい。」
パチッ、パチッ、パチッ。銀時の拍手が、人気の無い公園に響いた。話し終わった小夜も満面の笑みを浮かべ、ありがとうございます、と姿勢を正して頭を下げる。そんな小夜を見た銀時はよっこらしょ、と年寄り臭いかけ声とともに立ち上がり、小夜に向かって手を出した。
「ほれ。」
「あ、はい。お菓子ですね。」
銀時が手を出す仕草をするのは、甘いものを要求する時だと心得ている小夜はすぐ荷台に手を伸ばした。いつも駄菓子を入れているちりめんの袋を取り出し、するすると紐を解く。中にはべっこう飴、風船ガム、水飴、かりんとう等いった物が入っていた。好きな物を選ぼうと、遠慮なく銀時は袋に覗き込む。
「うお、こっちも山積みじゃねーか。どうしたんだ。」
紙芝居の画と同様、いつも以上に入っているお菓子に銀時は驚く。今まで駄菓子を絶やした事の無い小夜だが、普段ならそこそこの量で足りる筈である。ここ最近は子供達の足が絶えているのだから、余計に持って来る必要がない。突然の行動に、銀時はまたもや質問をするしかなかった。
「ええ。実は、紙芝居は今日で最後にしようと思うんです。」
その解答に銀時は目を見開く。祖父の代からずっと続けて来た事を止めるのは、きっと精神的にもキツい決断のはずだ。だが時代も時代の為、仕方の無い判断なのだろう。銀時は止める理由をあえて問わず、ただ小夜の未来を聞いてみた。
「やめて、どうすんだ?」
「……分かりません。今まで紙芝居しかやって来なかったから、正直、どうすれば良いのかは全然です。でも私もいい年ですし、ちゃんとした仕事を探そうと思ってます。紙芝居は、もう潮時ですから。」
そう語る小夜の表情は寂しげだった。銀時から視線を外し、彼女は使い込まれた紙芝居の束を見つめる。二人の間に沈黙が降りる。