第1章 君に手向ける
「今日は何の小芝居してくれんの? やけに沢山もってきてんじゃねーか。」
親しげに銀時は紙芝居の束を見ながら小夜に問う。いつもは二、三巻しか持ってこないというのに、今日は山のように話が積み上げられているのだ。そんな銀時の疑問に対して、小夜はよく聞いたとばかりに答える。
「ふふ、今日はお客さんに選ばせようと思って、紙芝居を全部もってきてしまいました。」
「え、何。選んでいいの?」
「はい。他に子供達もいないですし、坂田さんの好きなお話を選んで下さい。」
小夜の答えを聞いた銀時は少し考え込みながら地面に座る。そして一番スタンダードな物語を彼は選んだ。
「んじゃ、『桃太郎』で頼まぁ。」
「はい!」
どの話しにするのかが決まれば、小夜は手際良く「桃太郎」の紙芝居を木の枠に入れて準備をする。数分もせずに用意はでき、小夜は持ち前の話術と演技力で話を始めた。
「昔々、ある所に、おじいさんとおばあさんがおりました。」
代表的な始まり方で小夜は丁寧に、そして楽しくお話を語ってゆく。流れるように話す彼女の表情は輝いていた。