第1章 君に手向ける
けれど一番傷つくのは、子供達が小夜に見向きもしなくなった事である。小夜の記憶が正しければ、二週間ほど前までは子供達も小夜の紙芝居を楽しみにしていたのだ。話は「一寸法師」、「かぐや姫」、「さるかに合戦」と言った王道なもの。語り手の演技次第で楽しくもつまらなくもなる紙芝居だが、小夜は子供達を笑顔にさせられる語り手だと自負していた。一つの話を語れば必ず「もう一つ」とせがまれるのが常であり、聞いてくれたお礼に駄菓子も沢山あげていて、人気だったのだ。
それが突然、ふつりと子供達に相手にされなくなったのだ。何故かは分からない。自分が何かしたのだろうかとも思ったが、最後に覚えているのは子供達の笑顔であり、決して嫌われるような事はしていないはずである。
単純に紙芝居に飽きたのだろうか。つい最近、新作のVViiと呼ばれるゲームも発売されたと聞いたし、その影響で小夜の語りは下らなく感じるようになったのだろう。
「やっぱり、時代には敵わないのかな。」
諦めにも似た声で、小夜はつぶやく。長年使い込んで来た紙芝居の道具を撫でながら、大きな溜め息を吐いた。