第1章 君に手向ける
「みんなー! 紙芝居の時間だよー!」
多くの寺子屋が夏休みに入ったこの頃、小夜はかぶき町の公園へ足を運んでいた。子供のいない雨の日を除けば、彼女は毎日この公園に訪れている。紙芝居の画と、それを入れる木製の枠を自転車の荷台にのせて、祖父の代から続く紙芝居師としての活動を続けているのだ。もちろん、お話が終わった後に配る駄菓子も忘れはしない。
この子供達とふれ合う時間が楽しみで、今日も今日とて小夜はカン、カンと拍子木を鳴らしながら子供達に呼びかける。
「おい、けんちゃん。早くゲーセン行こうぜ。新しいUFOキャッチャーが出たんだってよ。ドッキリマンのやつ!」
「マジかよ、よっちゃん。」
しかし呼びかけも虚しく、風車を手にした子供達は公園から去って行こうとする。よっちゃんと呼ばれる男の子の言葉に反応したのか、その場にいた他の子達も出口へ向かい始める。
「あ、待って。今日はお菓子もいっぱい……」
さらに大きな声で呼び止めようとしたが、子供達はまるで何も聞こえないとでも言うように公園から姿を消した。キャッキャ、キャッキャと楽しそうな声が遠くから聞こえなくなれば、静けさだけが公園を支配していた。
この状況に落胆しない訳が無い。時代は流れ、子供達の興味は確実に地味な物よりテレビゲームと言った最先端技術を使った遊びへと移っていった。紙芝居と言った古き良き時代の遊びは、彼らにとってただのダサい代物なのかもしれない。