第2章 出会い
『あの…』
部屋に転がっているバスケットボールを、及川先輩は興味深々で扱っている。
そんな先輩に私は声をかけた。
及「瑠維ちゃんさ、俺が見てなかったと思ってる?」
『え?』
ボールをもてあそびながら、先輩はぼそりと呟いた。
及「みてたよ、何があったのか。ちょうど瑠維ちゃん探してた時だった」
『せんぱ…』
及「ねぇ、瑠維ちゃん。なんで言わないの?ムカつかないの?あいつらのせいで瑠維ちゃん、怖くてバスケできないんでしょ?」
なんでかなぁ。
この人ってほんとわかんない。
『ほんと、先輩って気持ち悪い』
及「え…?」
『なんでわかるんですか。誰もわからなかったのに、なんで私の気持ちわかるんですか?』
涙をこらえながら先輩を見ると、なぜか少し瞳が潤んでいるように感じた。
『先輩?』
及「瑠維ちゃんが、バスケ大好きで、俺もバレーが大好きで、尚且つ俺が瑠維ちゃんのこと大好きだから」
だから、瑠維ちゃんの気持ち
痛いほど
分かるよ
俯いた時、先輩の瞳から堪え切れずに涙が流れ落ちた。
頬に筋をつくって。
『先輩、先輩』
及「なぁに?」
『泣かないで』
その後の言葉がわからない。
なんて言えばいいんだろう、どうやったら先輩哀しまないんだろう。
『先輩』
及「ん?」
『私、どうすればいい?』
きっと縋っていたんだと思う。
自分じゃどうしようも出来なくて、でも、自分の中で答えは決まってて
それを踏み出す勇気が
私にはなかったんだと思う。
及「大丈夫、瑠維ちゃんは間違ってない」
『でも…私、逃げたくないよ』
先輩は、ゆっくりと顔をあげると、私の頬をなでた。
及「瑠維ちゃん?」
『は…い』
及「[逃げる]と[離れる]は違うよ」
その目はまっすぐで、ゆるぎなくて、優しかった。
及「瑠維ちゃんは逃げるんじゃない。一旦離れるんだ。だってバスケ好きだもん、またしたくなるよ。だから…」
『離れる』
呟くと、及川先輩はほほ笑んでくれた。
まるで、正解を教えてくれたかのように。