第2章 出会い
私を最初に見つけたのは及川先輩だった。
失っていた意識に呼びかけてきたのは、及川先輩の焦ったような声。
うっすらと目を開けると、目の前には先輩が居た。
『せ…ぱ…い?』
及「瑠維ちゃん!?そのまま動かないでね、すぐ救急車来るから!!」
先輩の手にべったり付いた血を見て、心配になった。
でも、それは先輩の血じゃなくて、私から流れる血液だった事に、その時はまだ気付けなかった。
次に気付いた時、私はベッドに居た。
医者からは「半月板損傷」と言われ、完全に半月板を取り戻すことは難しいとも言われた。
完全にバスケに復帰できるのは8ヶ月後。
痛みは残るかも知れませんが、痛みと付き合いながらバスケットを続けていってくださいね。
そう言われたのが苦しかった。
膝の痛みよりも何よりも
つらくて、痛くて、苦しかったのは
心の方。
私がいなくなれば、チームは上手くいくのだろうか。
私がいなくなれば、みんな笑ってバスケが出来るのだろうか。
私がいなくなれば、試合に勝てるのだろうか。
半月板の術後、私はすぐに退部届を取りに行った。
でも、それには親の印鑑が必要で、何と言えばいいのかわからなかった。
先輩に怪我をさせられたとも言えない。
なら、どうしてやめようと思ったのか。
どう言えばいいのか。
わからなかった。
私にはお兄ちゃんが居る。
大学生のお兄ちゃん。
意地が悪くて、でも優しい。
お兄ちゃんは、日本代表に何度も選ばれて、去年はオリンピックにも出た。
そんなお兄ちゃんと毎日1対1をしていたおかげもあってか、私自身もバスケにはまって、代表に呼ばれた。
そんな自分が誇らしかった。
だからこそ、親には言いだせなかった。
そんなお兄ちゃんが居たから、そんなじぶんが居たから。
バスケをやめたくないって思っている自分が居たから。
親には何も言えなかった。