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Memory(氷帝/日吉)

第1章 Memory


何を言っているんだ、俺は。
これじゃまるで部活中も黒崎先輩に写真を撮ってほしいと言っているようなもんじゃないか。
けれど、朝からひっきりなしに俺のそばに来ては、注文をつけて写真を撮っていた先輩からすると、部活中の姿を撮影しないというのは少し意外に感じた。

「部活中は、邪魔したくないから」

黒崎先輩の中での線引きは一応あるようだった。
そういえば今までも、俺が本当に集中したい時には、この人は決して邪魔することはなかった。
変なところ律儀な人だ、と心の中で思う。
そんな俺の心の内を察したのか、顔に出ていたのか、黒崎先輩が言葉をつづけた。

「さすがにわきまえるべきところは分かってるよ」
「…そうみたいですね。じゃあさっさと撮ってもらっていいですか」
「よし!じゃあラケットを肩にかけて、ピースして!」
「…はいはい」

ここまでくるともう口答えするのも疲れるだけだ、と半ば諦めの境地で、先輩の指示に素直に従う。
おおよそ俺の普段の言動からかけ離れた、俺に似つかわしくないそのポージング。
黒崎先輩が求めるのはそういう俺なのだろうか。

「…できたらさ、笑ってくれない?」
「笑うんですか?」

ついオウム返しで聞いてしまう。
少し困ったような顔をして、黒崎先輩が小さく頷いた。

「うん、笑顔の写真が欲しいんだ」
「・・・・・・」

そう、急に言われても。
「笑え」と言われてすぐニッコリ出来るような器用さは俺にはない。
こんな時向日さんや鳳だったら、すぐさま黒崎先輩が望むような笑顔を向けてあげられるだろう。
自分の不器用さにいら立ちながら、精一杯先輩の言葉に応えようと努力してみる。

「こ、こうですか」

ぎこちなく笑う俺を、黒崎先輩はなんとか笑わそうと必死で彼女なりの面白い話を繰り出す。
それでも時間が経つばかりで、俺は一向に先輩の望む笑顔を作れないでいた。

「そもそも、なんでそんな写真を撮るんですか」

俺が普段から笑顔を振りまくような人間でないことは、先輩はよく知っているはずなのに。作り笑いだって苦手なことを知っているはずなのに。

「だから日吉メモリーアルバムを作ってるんだってば」
「だから、なんでそんなアルバムを作ってるんですか」
「…携帯をさ、新しくしたんだよ」
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