第1章 Memory
授業が始まっても先ほどの場所にまだぽつんと1人佇んでいる黒崎先輩を見て本気で心配になった。
あんなことをしていて、あの人はちゃんと卒業できるのだろうか。
来年同じ学年で授業で受けているような気がしてならなかった。
その後も休み時間の度にやってきては俺の写真を撮り、昼休みには屋上だの水飲み場だの、部活が始まる前には更衣室にまで入ってこようとして、さすがに制止した。
周りの部員達も恒例となりつつある、俺と黒崎先輩の意味不明なやりとりに苦笑いしながら声をかけてくる。
「今日は何してんのん?黒崎さん」
「日吉メモリーアルバムを作成中なの」
「愛されてんなぁ日吉」
忍足さんがからかうように、そう言った。
妙にそれが俺の癪にさわった。
口から出る言葉が、ついきつくなる。
「バカなこと言わないでください。朝から迷惑してるんです」
「の、わりにはポージングまでしとったやん、自分」
「はぁっ?!」
何故、忍足さんが知っているんだ。
確かに色んな場所で写真は撮ったが、周囲に人がいない時を狙っていたはずだ。
「いや自分、見られてないと思っとったん?3年の教室からよう見えとったで」
あんなポーズとかこんなポーズとか、と言いながら、見られたくなかったポージングを忍足さんが目の前でご丁寧に再現してくれた。
これがまたよく観察していたな、と感心するほど寸分違わぬポーズで……余計に腹が立った。
「基本的に優しいんよな、日吉は」
「別に優しくしてるつもりはありませんよ」
「黒崎さんには、優しいんよ」
「はぁ?俺がですか?」
違うか?と笑いながら言う忍足さんには、俺の心の奥底に隠してある気持ちなんてお見通しなのかもしれない。
メガネの奥で光るその瞳は、何か言いたげだった。
「ま、あんま無理強いしたらあかんで、黒崎さん。日吉も人の子やから」
「うん、加減はしてる」
忍足先輩の発言も大概だが、さらりと答えた黒崎先輩の言葉に耳を疑いそうになった。
加減していたのか、あれでも…朝から今まで、ストーカーのごとく俺に張り付いていたのに。
黒崎先輩の「加減」というものが何を指すのか、俺には理解できない。
「日吉、これが最後。あと1枚お願い」
「…部活中はいいんですか?」
思わず口をついて出た言葉に自分でも驚いた。