第1章 Memory
後のことを考えると、今自分が折れておく方が何かと都合がいいだろうと計算をした結果だ。
何も、あなたの為にやっているんじゃないですからね―。
目にそんな思いを込めて黒崎先輩を一瞥し、仕方なく言われた通りのポーズをとる。
こんなところ忍足先輩達に見られたらなんと言ってからかわれるだろうか。考えるだけでゾッとする。
そんな思考が顔にだだ漏れだったのか、黒崎先輩は俺の表情を確認してきた。
「おっ、乗ってきた?いいねいいねーその表情!じゃあそのままアンニュイな気分でいこうか」
「…」
気分まで指定してくるのかこの人は。
その情熱を何か他のことに向ければいいものを。
何故そんなに一生懸命に俺なんかの写真を、朝から撮るのだろうか。
そこに大した理由などないことに、俺はうすうす気が付いていた。
いつだってこの人の言動は突飛で、一貫性もない。
今日だって何か気分が写真を撮りたい気分だっただけだろう。
どうしてか自分でもよく分からないが、そのことに少し苛立ちを感じる自分がいた。
朝から意味なく振り回されることに腹が立っている、というよりは、「大した理由」が彼女の中にないことに腹が立っていた。
理由があったらいいのに、それも、俺が望むような。
なんて自分勝手な願いだ、と思いながら、次々とポーズの指示をとばす黒崎先輩を見つめる。
俺の目に宿る気持ちの変化になんて全く気が付いていないようで、それがまた憎たらしい。
「もう、いいですか」
授業開始を告げるチャイムが廊下に鳴り響く。
今から教室に向かっても授業には遅れてしまうだろうが、さすがにサボる訳にもいかない。
「うん、ありがとう!また後でね!あ、西先生は今日いないから次自習だよ~だからゆっくり教室戻っても大丈夫だよ」
この人は俺の時間割を把握しているようだ、その上自習になったことまでも知っているとは…。
一体どこからそんな情報を仕入れてくるのだろうか…大方、鳳あたりだろうが。
しかしそんなところに配慮するくらいなら、始めからこんなことをしなければいいのに、と思う。
「…じゃあ」
短く答えて、教室へ戻る。
教室に入る前にちらりと先ほどまで2人でいた方へ目をやった。
「あの人、授業出る気ないのか…?」