第17章 第十七話
『俺達にできるのは、彼女がこちらに来てくれるまで待つことです。今はただひたすら、時が過ぎゆくのを待つしかない…』
『…俺はいつまでも待つつもりやんに。たとえ何年でも、何十年でも』
木手を前に誓った、自分の言葉を思い返して、知念は項垂れたまま力なく首を振った。
彼女を待つ、とそう決めたのだ。
それが叶うのはいつか分からない未来で、もしかしたら叶うことはないかもしれない。
黙って自分の元から去って行った彼女は、もう二度と自分の元に帰ってくることはないかもしれない。
繋がらない携帯が、知念に一抹の不安をよぎらせた。
そんな不安をかき消すように、知念は気持ちを奮い立たせて、握りしめたスマホにゆっくりと目をやり、長い親指でメール画面を開いた。
新規メールを立ち上げて、文字を打ち込んでは消して、打ち込んでは消して、を何度も繰り返した。
宛先に如月のアドレスを指定して、送信ボタンを押す。
電波に乗って知念の想いは空を飛び、どこへいるのか分からない如月の元へと届けられた。
『送信完了』の文字に知念は安堵し、スマホをポケットの中にしまった。
見上げた秋晴れの空は、知念の心とは裏腹に雲一つなく実に爽やかなものだった。