第17章 第十七話
プルルル…とコール音が耳に当てたスマホから流れる。
3回、4回、と回を重ねるごとに知念の気持ちは焦れていく。
(頼む、出てくれ、如月…)
祈るようにそう願う知念の思いが通じたのは、予鈴のチャイムが鳴り響いたのとほぼ同時だった。
「……はい」
「如月、か?」
「……知念、くん…」
電話から聞こえてきた如月の声は力がなく、彼女が知念からの電話を快く思っていないことがそこから感じ取れた。
けれどそれに構うことなく、知念は自分の想いを彼女にぶつけていた。
「なんで、黙って行くんばぁ。見送りぐらいさせて欲しいんど」
「……ごめん、ね」
「今、どこだ?いつ出発するんだ?」
「………ごめん、知念くん……もう、沖縄にはいないの……」
如月の口から告げられた事実に、知念はがっくりと肩を落とした。
無言のまま何の言葉も続けない電話の向こうの如月にむかって、知念は、なんでだよ、と小さくつぶやいた。
その知念の言葉に、ごめん、とだけ如月は返して、その後すぐにプツリと電話は切れてしまった。
通話終了の文字が浮かぶディスプレイに目を落とし、知念は震える手でもう一度如月に電話をかける。
しかしその後何度かけなおしても電話が繋がることは無く、知念はスマホを握りしめて項垂れるしかなかった。
「絶対守る、って決めたやんに…俺から離れて行ってしまうのか、如月……」
沖縄を離れることにしたのは、何も如月の気持ちの問題だけではないだろうことは知念にも分かっていた。
あんな事件が起きてしまっては、今後彼女が静かに生活していくのは難しかっただろうし、少しでも早く傷を癒すのなら、忌まわしい記憶の地から離れるのはもっともな手段だと、知念も思う。
あの日ようやく掴みかけた如月の手は、無情にもするりと知念の手をすり抜けて、届かない場所へと行ってしまった。