第17章 第十七話
知念達が如月に会えたのは、結局あの一回きりで、その後は如月の母からの願いもあり、知念も木手も病室を訪ねることはしなかった。
二人とも、彼女から連絡が来るまでは積極的に関わりを持つことはしないでおこう、と心に決めていた。
犯人も捕まったことで、ニュースとして事件が取り上げられることもなくなり、学校での噂も少しずつ静かなものになっていった。
それでも時折知念の耳に入る如月の話に、人の噂がいつまでも続きそうな気がして、いい加減知念はうんざりしていた。
本人を目を前にしても同じことが言えるはずもないのに、嬉々として噂話に花を咲かせる人間に、もう何度知念は憎々しげな視線を送っただろうか。
こんな状況で如月がここに帰って来られるだろうか。
本人が姿を現せば、また噂に火が付くのは想像に難くない。
彼女の身に起こったことは周囲の人間のみならず、学校の人間のほとんどが知っている。
このままもう比嘉中には姿を表すことはないかもしれない、そんな考えが知念の頭に沸き起こった頃、それは唐突に訪れたのだった。
事件が起こってから知念の日常はどこか非日常の毎日が続いているような感覚だったが、実際は今までと何も変わらない日常の風景の繰り返しだった。
今日もいつもと同じように、朝のHRが始まり、長い一日が始まろうとしていた。
「あー…今日は皆に知らせがある。如月が県外に転校することになった」
ざわざわと教室が騒がしくなる。
知念の心の中も同じように騒がしくなった。
寝耳に水の話だったが、どこかでそんな予感はしていた。
けれどそれがこんなに急に、それも事前の知らせなど一切なく知らされると思っていなかった知念は大分ショックだった。
HRが終わってすぐに、知念はスマホを片手に教室を飛び出した。
誰にも邪魔されない場所を探して、知念は屋上を目指した。
屋上へ続く扉には鍵がかかっていたが、知念は乱暴にその扉を蹴破って扉を開けた。
勢いよく開いた扉の中に、蹴りあげた足をそのまま踏み出して屋上へと躍り出る。
給水塔の陰に座り込んで、スマホをいじって如月の番号を表示させた。
一瞬知念のボタンを押す手は迷いを見せたが、深呼吸をして勢いに任せてボタンを押した。