第16章 第十六話
「…私が、帰ってって言ったの。会いたくないって」
「そう…。ごめんね、お母さんが二人に会いに来てほしいって勝手にお願いしちゃったのよ…あなたの気持ちを無視しちゃっていたわね…」
「ううん……お母さんの気持ちも、二人の気持ちも嬉しいよ。…でも、まだ私は…」
「…大丈夫よ、二人ともあなたの気持ちは分かってくれるはずよ。誰よりもあなたのこと心配して駆けつけてくれた子達だから…」
優しく如月の背をさすりながら、小さく嗚咽を漏らす娘を母はそうっと抱きしめた。
力を入れればすぐに壊れてしまいそうな自分の娘に架された非情な運命に母もまた涙を浮かべた。
「あっ…そういえば、二人から預かってたのよ。これをあなたにって」
言って母が如月に手渡したのは、赤い小さなフォトアルバムだった。
開くとそこには、如月の可愛がっていた知念の家の灰色の仔猫の写真が何枚もおさめられていた。
知念の家に来たばかりの小さな小さな頃の写真から、成長順に並べられた写真を順を追って如月は眺めた。
途中如月と猫のツーショットや、木手と知念と3人で撮った写真など、楽しかった頃の思い出が蘇るような写真もおさめられていた。
3人でカメラ目線でおさまっている写真を穴が開くほど如月は見つめ、自分の選択が本当に正しかったのか、ほんの少しだけ後悔の念に駆られた。
もしあのまま、自分の気持ちに蓋をして木手とそつなく付き合いを続けていれば、思い出したくもないあんな目に合わずに済んだかもしれない。
木手を傷つけることも、知念を傷つけることもないまま、そして両親が傷つくこともないままそれなりに幸せな日常を送れていたかもしれない。
たらればの話をいくら考えても、時は戻せないし、現実は変わることは無い。
それでも如月は今と違った未来を想像せずにはいられなかった。