第16章 第十六話
一方、病室の如月は、知念達が去った後もしばらく布団をかぶったまま外の世界を拒絶していた。
消えてなくなりたいと願ったこの体を、彼らに見られたショックは計り知れなかった。
同時に、自分を心配して彼らが病室を訪ねて来てくれたことも痛いくらいに理解していた。
熱がこもり息苦しさを感じ始めた頃、如月はようやく静かに布団から顔を出した。
少しだけ開けられたカーテンが、先ほどまでそこに知念がいた事実を示していた。
如月は真っ白なカーテンをそっと握りしめ、ありもしない知念のぬくもりをそこに求めた。
あの時助けを求め、誰よりも会いたかったはずの知念の顔を思い浮かべて如月は涙した。
自分の拒絶の言葉にひどく狼狽し、悲しそうな顔をしていた彼のことが頭に浮かび、胸が苦しくなった。
彼を傷つけたいわけではなかったが、結果そうなってしまったことが如月には悔やまれてならなかった。
けれど泡となって消えたいと願った今となっては、知念と会うことは彼女にとって苦痛でしかなかった。
今の如月には知念の気持ちを受け入れるほどの余裕はなかったのだ。
未だ体に残る無数の傷は、彼女をあの悪夢からそう簡単に解放させてくれそうにないことを物語っていた。
膝をかかえ身体を小さく丸めて如月は静かに涙を流した。
ようやく出会えた大好きな人、抱きしめて欲しいと願ったその手に触れられることが、その目にさらされることが、何よりも辛いだなんて。
神様はなんて残酷なのだろう、如月はそう思わずにはいられなかった。
病室のドアが静かにあいて、如月は思わずそちらを見やった。
頭の隅で、知念の姿を予想した自分に、如月は自嘲気味に笑った。
(さっきの今で、来るはずなんてないのに―――)
扉の向こうから現れたのは母の姿で、涙を浮かべる自分を心配そうに見つめる顔にまた涙が浮かんでくる。
「…知念君達、すぐ帰っちゃったのね」
母の言葉に、如月は眉根をギュッと寄せて悲しそうな顔をした。
そんな如月を見て、母は彼女に誰かを会わせるのはまだ時期尚早だったのか、と自身の判断を後悔した。