第16章 第十六話
部屋は個室だったようで、部屋の真ん中には如月のいるだろうベッドを白いカーテンがぐるりと取り囲んでいた。
閉じられたカーテンのせいで、中の様子は分からなかったが、知念と木手が来たことに何の反応もないことが、二人の不安を掻き立てた。
静かにゆっくりとベッドに近づき、知念はそっとカーテンを開けた。
病院の大きな白いベッドが現れ、そこに横たわる如月は長い睫毛を伏せて静かな寝息をたてていた。
「あ…寝ていたのか…」
「そのようですね。…起こさず、待っていましょうか」
「そうだな」
反応が無かったのは彼女が寝ていたからだと分かり、二人は安堵した。
静かに眠る如月を見つめ、知念はそっと彼女の顔にかかる髪に触れた。
すると髪の毛で隠れていた首に浮かんだ無数のひっかき傷が現れて、知念と木手の顔を歪めさせた。
よくよく観察すれば、点滴のつながった如月の細い腕にも、白くて綺麗な彼女の顔にも、紫色をした痣や切り傷のようなものがいくつも見て取れた。
暴行の凄まじさを彼女の体の傷に垣間見て、知念はぐっと唇を噛みしめた。
こんなか弱い少女一人に、よってたかって傷をつけた男達が許せなかった。
身体だけではなく、心に負った深い傷も、知念は丸ごと受け止めてずっと守ってやろう、と心に誓った。
知念と木手が如月を静かに見つめていたのは、時間にして数分だっただろうか。
ふと彼女の目がゆっくりと開き、ぼんやりとした顔で自分を見つめる人物を見つめ返した。
次第に鮮明になった意識と共に、如月の目が大きく見開いて行き、次の瞬間には彼女の口から大きな悲鳴が飛び出していた。
「…っ、如月、落ち着け!俺だ、知念だ!」
「嫌っ!こないで!!あっちに行って!!」
「ち、知念クン、彼女から離れて!」
急に暴れだした如月に、知念も木手も驚いていたが、幾分か木手の方が冷静で、慌てて拒否する彼女に掴みかかろうとする知念を寸でのところで制した。
木手は、如月にはまだ事件の幻覚が見えているのだろうと考えた。
目を覚ました先に自分を覗き込む男の顔があれば、彼女の忌々しい記憶の扉を開いてしまうのは無理もないことだろう。