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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第15章 第十五話


「海本クン、ちょっといいですか」
「何?木手君」
「少し話したいことがあるので、放課後、時間をいただけますか?」
「えっ…う、うん…いいよ」

木手に放課後の呼び出しを受けて、アザミは天にも昇るような気持ちになっていた。
とうとう待ち望んでいた自分の番がやってきたのかもしれない、とアザミは嬉しくなった。
はやる気持ちを抑えて、胸に抱えたカバンを抱きしめながら、木手に指定された屋上へ続く階段を駆け上がった。

重たい扉を開けると、夏の終わりの匂いをはらんだ風がアザミの髪を梳いていった。
屋上の手すりに寄り掛かって携帯をいじっていた木手が、アザミに気づき、彼女に対してふっと小さく笑った。

アザミにはいい予感しかしていなかった。
自分のしたことなどすっかり忘れて、ただ目の前に佇む大好きな人の顔を見つめて、彼の元へ駆け寄った。

にっこりほほ笑む木手が、待ってましたよ、と言うと、彼はその笑顔を保ったまま、アザミの肩を力強く握ってきた。
あまりにも強い木手の力に、一瞬アザミは痛みに顔をしかめた。

「き、木手君…?」

木手の表情と行動がちぐはぐなことに、アザミが首をかしげると、木手の表情はそれまでの笑顔から一変した。

「お前がやったのか」

地の底から湧きあがったようなドスの効いた低い声に、アザミは思わず身震いした。
こんな表情の、声の、木手永四郎という男を、アザミは今まで見たことがなかった。
自分の知らない冷酷非情な顔をした木手を、ただ震えながら見つめるしかアザミにはできなかった。

「お前がやったのかって聞いているんだ!」

いつの間にか木手とアザミの立ち位置は入れ替わっていて、アザミは手すりを背に押し付けられて木手に眼前まで迫られていた。
冷たい手すりの感触が、木手の顔がじりじりと迫るにつれて、アザミの体に強く食い込んでいった。
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