第14章 第十四話
「その時は俺も手を貸す」
たとえ誰かに馬鹿なことを、と言われても、そう発言した知念は本気だった。
向かい合った木手は知念の言葉に静かに首を振って、君はダメです、と答えた。
「なんでだよ。俺だって犯人のことは許せない」
「…君は、彼女の傍にいなくちゃいけない。二人とも捕まったら、誰が彼女を傍で守るんですか?」
『守る』その言葉に知念の心臓はどくん、と音をたてた。
今まででさえ、守りきれなかったのに、これから彼女を守ることが自分に出来るのだろうか?
「知念クン、君はまさにこれから彼女を守らなければいけないんです。彼女を取り巻くあらゆるものから。…彼女は被害者だ。けれど事がおおやけになれば、周囲は黙ってはいないでしょう。
これまで以上に彼女は周囲の目にさらされることになる。彼女が受ける傷は何も犯罪者からだけとは限らない。何も知らない、知ろうともしない大衆も、時として彼女を傷つける集団になりうるのです」
今回のことが、事件として取り沙汰されるかどうかは分からなかったが、少なくとも学校では噂にはなるだろう。
話はどこからでも漏れるものだ、知念の耳に入ったくらいだ、しばらくすれば学校でもこの話で持ちきりになるに違いない。
その時、またあの女子達は「ざまぁみろ」と如月を笑うのだろうか。
知念の頭に、嫌な笑みを浮かべて嘲笑する女子の姿が浮かんだ。
言葉は時に刃となって人を傷つける。
悲しいことに、その武器は誰にでも簡単に手にすることができてしまう。
そしてそれを振りかざすことも、いとも容易いことだ。
今度は、『人の噂も七十五日』だなどと、如月も言っていられないだろう。
今回の事件は、多感な年ごろの知念達にとってあまりにも衝撃的すぎる事件なのだ。
「守れる…のか…俺に」
「守らなきゃいけないんです、何があっても」
木手の目に宿る強い光を見て、知念はごくりと唾を飲みこんだ。
自信がないなどと弱音を吐いている場合ではない、知念は自分を叱咤して気持ちを奮い立たせた。
「彼女が守って欲しいのは、俺じゃないんです。知念クン、キミなんですよ」
念を押すように木手は言った。
カラン、とコップの中の氷が音をたてて水の中に沈んでいった。