第14章 第十四話
木手に言われた言葉が脳裏に浮かび、耳に何度もこだました。
『………男に乱暴された跡があった、って言ってたから……』
「なっ…」
知念が考えていた自殺の理由とは違ったが、母に告げられた事実はそれよりも遥かに大きな衝撃を知念にもたらした。
きらきら輝く如月の笑顔がガラガラと音をたてて崩れていくのが知念の目に浮かんだ。
一体どこの誰が。
何の権利があって彼女にそんな酷いことを。
ギリ、と噛みしめた唇に血が滲むのも気にせず知念はさらに唇を強く噛んだ。
口の中に広がる鉄の味に、知念の体中の血が逆流しそうだった。
母と会話を終え、向かった木手の部屋のドアを軽くノックする。
すぐにドアノブが回って中から木手が顔を出した。
話がある、とホテルのロビーに二人で向かい、先ほど母から聞いた情報を木手にも伝えた。
話を聞いた木手の双眸は大きく見開かれ、握りしめられた両方の拳は怒りに震えていた。
思うことは木手も知念も同じだったようで、どちらからともなく明日の朝一番で沖縄に帰る話になった。
帰ったところで何ができるわけでもないことは、二人とも重々承知していた。
けれどこのままここに残ったところで何も手に着かないのは目に見えていた。
如月を守れなかった罪悪感と後悔を胸に、知念と木手は朝が来るのをただひたすら待ち続けた。