第14章 第十四話
「…永四郎、昨日は殴ってすまなかった」
「…いえ、俺も君を挑発するような言動でしたからね。殴られて当然ですよ」
昨夜知念が殴った木手の左頬は赤黒く腫れていた。
あの時は何も考えず力任せに殴ってしまったが、それがどれほどの勢いだったのか木手の腫れた頬が物語っていた。
二人とも昨晩は一睡もしていなかったが、しばらく時間が経ったためか幾分かお互い冷静になっていた。
それでも考えていたことは同じだったようで、それぞれなんだかんだと理由をつけて早乙女の了承を半ば無理矢理取って朝一番の便で沖縄に戻ることにした。
隣同士の席に乗り込んでしばらくはお互い無言だったが、半時ほど過ぎた時ようやく知念が昨夜の出来事に対して謝罪を行ったのだった。
「もっと早く、お互い向き合うべきだったのかもしれませんね。…気づいていながら、俺はどこか目を背けていた」
「…俺も、同じだ」
「…しかし…彼女の意識が戻るまでは、一時休戦しませんか」
「あぁ」
木手の言葉に静かに知念は頷いて、そのまま押し黙った。
***
―昨日の深夜―
ずっと握りしめて離さなかったスマホがブルブルと震えて、着信を知らせた。
知念はすぐさま通話ボタンを押す。
『美鈴ちゃん、海で見つかったって』
母の言葉に知念は如月が見つかったことに、ひとまず安堵した。
しかし『海で見つかった』とはどういうことなのだろうか。家にも帰らず海を見に行ったとでも言うのだろうか。
また学校で嫌がらせでも受けてささくれだった心を静めにいったのだろうか?
しかしそれなら自分に電話かメールでもしてきそうな気がして、知念は首をひねった。
「海?それで、如月は無事なのか?」
なんとなく、知念の頭に嫌な予感がよぎった。
ほんの少しだが、母の声が震えていたような気がしたから。
『…それが、意識不明の重体だって…』
「意識不明って…どういうことだよ…」
嫌な予感は当たった。
けれど一体全体何が起こって海で意識不明で発見されたのか知念には想像がつかなかった。
次の母の言葉に、知念は自分の耳を疑った。
『……美鈴ちゃん、自殺しようとしたらしいのよ』
「自殺?!」
如月は自分に言わないだけで、そこまで追い詰められていたというのか。
彼女を全く守れていなかったというのか。