第13章 第十三話
「…ええ、知っていましたよ」
「なんで、止めようとしなかった」
「…俺が口を出せば、余計に事態は悪化するでしょう」
「お前ならそうならないように、いくらでも上手く立ち回れるだろう?!あいつが傷つくの、平気だったっていうのか?」
木手の答えに知念は思わず声を荒げて、木手に掴みかかっていた。
平古場と甲斐が知念を止めようと二人に近づくが、木手は静かにそれを制止した。
「そうですね。俺にはもう関係のない人ですから」
吐き捨てるように言う木手の姿に、知念はかぁっと頭に血がのぼっていくのを感じた。
次の瞬間には知念の固く握られた右手は木手の頬に殴りつけられていた。
衝撃で木手の体は、後ろにいた甲斐にぶつかりながら後ろへと倒れこんだ。
「寛、何やってるんばぁ!」
「殴ることはないだろ!」
大丈夫か、と木手を支える甲斐にも知念は憎々しげな目をして、倒れこんだ木手の胸ぐらをもう一度掴もうとした。
知念が木手の胸ぐらをつかむ前に平古場が後ろから知念を羽交い絞めにして、それ以上彼が木手に手を出さない様に必死に止めた。
細い知念の体のどこにそんな力があるのか平古場が不思議に思うほど、知念は抑える平古場を引きずりながら木手に近づこうとしていた。
平古場の爪が体に食い込み、白い跡がくっきりと浮かび上がる腕を必死に動かしながら、知念は怒りに震えながら木手を睨み付けた。
20センチ以上も身長に差がある為、平古場の制止は知念にはあまり意味のないものだったが、それでもほんの少しだけ知念の理性を呼び戻すのに成功した。
「…ほんの少し前まで彼女やった女ど!何でそんな冷たいことが言える、永四郎」
「今はキミが傍についているでしょ。俺は必要ないじゃないですか!…自分が彼女を守れていない事を、俺に責任転嫁しないでもらえますか」
「なんだと?!」
「そうでしょう?君は彼女の傍にいながら、絶対守ると彼女に誓いながら、結局守れていない!俺なら彼女にあんな思いはさせない、怪我もさせない!」
木手のその言葉に知念はぐっと言葉を詰まらせた。
木手の言うとおり、知念は『絶対守る』と如月に言いはしたが、それは結局のところ言葉だけで、そのことは知念も痛いくらい分かっていた。