第13章 第十三話
その頃の知念は、如月の身に起こったことなど露ほども知らずに、短い入浴時間を慌ただしく終え、割り当てられた自室へと戻ったところだった。
同室の平古場はすでに就寝の準備を済ませ、ベッドの上でごろりと横になってファッション雑誌を読んでくつろいでいた。
「寛、さっきからケータイがうるさい」
部屋に入ってきた知念に視線を送って、平古場はすぐに雑誌へと視線を戻した。
目が悪くなるぞ、と知念は平古場の枕元の明かりをつけ、テーブルに置いたままにしてあったスマホを手に取った。
着信を知らせる青いランプがゆっくりと点滅を繰り返している。
ディスプレイに触れて確認すると、実家から数分おきに着信が入っていた。
その着信の数にただごとではないと感じて、知念はすぐさま家へと折り返した。
続くコール音がなんとももどかしい。
知念がしびれを切らして一度電話を切ろうと思った時に、コール音がブツリと途切れ、もしもし、と母親の声が聞こえた。
「母ちゃん、何の用だ?えらく着信があったけど…」
『寛!うちによく遊びに来てた美鈴ちゃんが行きそうなとこ、心当たりない?!』
「はぁ?ぬーがよ、急に」
『美鈴ちゃんまだ家に帰って来てないらしいのよ!』
母親の言葉がどこか現実には思えなくて、知念は一瞬言葉に詰まった。
外はすでに闇に包まれている。ベッド付近にあるデジタル表示された時刻を見れば、すでに21時前だった。
如月はこんな時間まで外をほっつき歩くような子ではなかった。それは彼女の身に何か起きたことを示していた。
事件か、事故か?知念の頭にぐるぐると不穏な文字が浮かび上がっては消えていく。
頭を振って必死に浮かんでくる悪い予感を振り切って、必死に如月の行きそうな場所を頭の中で検索してみる。
思いつく限りの場所を母親に伝え、ベッドの上の平古場にも尋ねてみる。
「凛、如月が行きそうな場所に心当たりないか?!」
「如月?うーん、そういうのは俺より永四郎の方が詳しいんじゃないか?…そんなに慌てて一体どうした…」
平古場の言葉を最後まで聞き終える前に、知念は部屋を飛び出していた。
乱暴に開けられたドアが大きな音をたてて閉まった。
尋常ではない知念の様子に、平古場はベッドから体を起こして彼の後を追うことにした。