第12章 第十二話
こんな時、木手だったら、もっとうまく立ち回るのではないだろうか?
そんな思いが度々知念に沸き起こり、その度に口惜しい思いで胸がいっぱいになるのだった。
***
先ほど知念に睨み付けられた女子生徒達は、更衣室で知念の話題で盛り上がっていた。
「知念って超怖いんだけど。さっき睨んでたのなんだったの?」
「そういえばあいつ、こないだ如月と抱き合ってたよ!」
「…えっ?!マジで?…木手くんと別れて知念と付き合ってるってこと?」
「はぁ?木手くん振ってもう次の男と付き合ってんの?」
「いいご身分だよね~」
着替えをしながらそんな話題で盛り上がる彼女達の話は、そばにいたアザミ達の耳にも自然と届いた。
田村を含むいつもの取り巻き達とちらりと顔を見合わせて、アザミ達も如月の話を始めた。
「どうせたぶらかしたんでしょ、知念のこともさ」
「…じゃあさ、他の男もたぶらかしてそうだよね」
「あーそうだよ。テニス部メンバーみんな粉かけてんじゃね?」
「マジでありえない。何様なんだろ、ホント」
「根っからの男好きなんじゃない?」
取り巻きのうちの1人の言葉に、アザミの頭の中にある企みが浮かんだ。
心に渦巻くこの黒い感情を、彼女にそのままぶつけるだけでは、もう彼女は満足できないでいた。
如月が深く傷つく姿が見たい――、自分が欲しいと願うものを何もかも手に入れる彼女が泣き叫ぶ姿が、見たい。
そうすれば、自分だけが不運な人間だと思わずに済む。
如月だけが幸せで、恵まれた人間なんだと、妬ましい気持ちを抱かずに済む。
「だったら、もっと遊んでくれる男紹介してやろうよ」
言ってポケットから取り出したスマホをアザミは手慣れた様子でいじる。
取り巻き達も興味津々な様子で、アザミの手元を覗き込む。
写真フォルダーの中から如月が映っている写真を選び出し、器用に如月の部分だけトリミングして、一枚の写真に仕上げる。
その写真をフォルダーに登録したかと思えば、アザミはすぐにネットに繋いで出会い系のSNSに登録を始めた。
名前の欄に「如月美鈴」とためらいもなく打ち込み、自己紹介は適当にチェックをつけていき、自由に記入できる欄のところまで来るとアザミの顔が醜い笑みで歪んだ。