第12章 第十二話
ざわざわと騒がしくなった女子のコートを、シュートを決めた知念は何事かと見やった。
コートの中で倒れこんでいる如月の姿が目に入り、知念の意識は一気にそちらへ持って行かれた。
「おい、知念!何ぼうっとしてんだよ!」
味方から背中をドンと押され、知念は意識は如月に向けたまま、とりあえず足だけ動かした。
揉めだした女子コートの方へ教師が向かい、如月のもとへ駆け寄り、コートの外へと彼女を連れ出した。
頭を押さえている如月の顔は真っ青で、今にも倒れそうだった。
ふらふらとした足取りで歩みを進める如月のそばにすぐにでも駆け寄りたいと思う知念だったが、知念の試合はまだ終わりそうになかった。
「知念!」
声にハッとすると眼前にボールが飛んできていた。
身体が勝手に動いてボールをキャッチすると、シュートの体制へと入る。
綺麗な弧を描いて知念の手から離れたボールはゴールの中へと吸い込まれていった。
「ナイッシュー!」
ハイタッチを求めてきたクラスメイトに軽く応えて、知念はもう一度如月を姿を目で追った。
七海に付き添われて校舎の方へと歩く如月の姿を見つけて、知念は少しだけ安堵した。
きっと保健室に行ったのだろう、授業が終わったらすぐに覗きに行こう、と心に決めて、知念は飛んできたボールを受け取って試合に意識を戻した。
授業が終わり、更衣室に向かう道すがら、知念が耳にしたくなかった言葉が女子生徒達の間から漏れ聞こえてきた。
「如月のやつ、ざまぁみろだよねぇ」
言ってクスクスと笑いあう女子に、知念は厳しい目を向けた。
無言のまま睨み付ける知念だったが、視線を感じた女子生徒はそそくさとその場を立ち去って行った。
知念に恐れを抱きつつも、彼に対して「なによ、あれ」と不快感をあらわにしながら。
絶対守る、と如月に誓った知念だったが、実際は後手に回ることが多かった。
今だって如月の陰口を叩く女子を睨み付けるしか出来ない自分の不甲斐なさに、知念は腹立たしくなった。
なるだけ如月のそばにいるように知念は心がけてはいたが、どうしたって防ぎきれないことも多かった。
その度に傷つく彼女の姿を見るのはとても辛かった。