第12章 第十二話
体育なんてかったるくてやってらんない、そう思っていたが、ストレス解消になりそうなことを見つけてアザミはたまには教師もいい種目をチョイスするものだ、と思った。
クラスごとの対抗戦をすることになったのも、アザミにとって好都合だった。
彼女のクラスを支配しているのは実質アザミだったので、ボールを自分に回させることは容易だった。
腰巾着の田村もいるとなれば、アザミが計画を実行するのはいとも容易かった。
狙いを如月に絞って、何度もボールを彼女目がけて投げつける。
すんでのところで如月はボールをかわし、コート内を逃げ回った。
如月だけが狙われていることに気が付いた七海が、如月をかばうように彼女の前に躍り出てボールをキャッチし、アザミを狙ってボールを放った。
うなるようなボールの勢いにアザミが一瞬怯んだが、田村がそれをカバーするようにアザミの前に出た。
田村にぶつかったボールはコロコロと転がり、コートから飛び出るすんでのところでアザミが拾い上げた。
(ちょこまかウザいんだよ!)
入学した時から気持ちを奪われた木手がよりにもよって選んだ相手が如月だなんて、アザミはずっと許せなかった。
いつだって彼の目に留まるように振る舞ってきたし、彼のことを誰よりも知っている自信があるのに。
いくら私が望んでも手に入れられないのに、如月は望んでもいないのに手に入れて、あっけなく手放した。
(どこがいいの、あいつの。なんでこんなに頑張ってるのに届かないの。…ホント、ムカつく!!あいつさえいなければいいのに!)
憎しみをこめたボールは今度こそ如月を捉え、鈍い音とともに如月の側頭部にヒットした。
瞬間やった!と思わずガッツポーズを決めそうになり、アザミはその感情を必死に押し殺した。
「あっ、ごめん!大丈夫?」
心にもない謝罪の言葉を述べるアザミに、七海が苦々しげな表情で食って掛かった。
「ちょっと、今のわざとじゃないの?」
「え?違うよ~?」
「さっきから美鈴のことばっかり狙ってたじゃない!」
「そんなことないよぉ…なんでそんなこと言うの?私はマジメに体育やってるだけなのにぃ…」