第12章 第十二話
しばらく如月の周囲は騒がしかった。
小さないやがらせや嫌味が多かったが、それが積み重なれば誰だっていつもと同じような精神状態ではいられない。
授業中、教師に当てられても如月はぼうっとしていることが多く、注意されることが度々あった。
「美鈴、大丈夫…?ちょっと休んでおいたら…?」
顔色のすぐれない如月に、七海はそう助言したものの、如月が素直に従いそうにないことは分かっていた。
きっと無理をしてでも次の体育に参加するだろう。
彼女なりの意地なのか、周囲の心無い噂や嫌がらせに屈したところを如月は見せたくないようだった。
「平気だよ。心配してくれてありがとう、七海ちゃん」
「無理しないでね、本当に」
「うん、ありがとう」
笑顔で如月は七海に答えたが、力なく笑う姿が七海には痛々しく見えた。
体操着の入ったカバンを持つ手が前にもまして細くなったように見えて、七海は唇をぎゅっと噛みしめた。
こんなにそばにいるのに、如月を守ってあげられるのは自分じゃないような気がして、ならなかった。
「今日、ドッジボールだって」
「えー、最悪。めんどくさ。男子はいいよね、バスケでしょ?」
ちらりと隣のコートを見やって、少女が言うと、うちらもバスケが良かったよね、と傍らの少女が相槌を打った。
周囲の少女達より少し派手目な彼女達が歩いて行くと、少しだけ周りの子達が距離を取るように彼女達から離れて行く。
その様子にフン、と鼻をならして少女は歩みを進めた。
「ねぇ、アザミ。見なよ、如月いるじゃん」
「ホント…結構しぶといよね、あいつ」
アザミ、と呼ばれた少女は、先日如月を取り囲んで彼女に暴力をはたらいた少女達の中のリーダー格の少女だった。
青白い顔の如月を見たアザミは意地悪そうな笑みを浮かべて、傍らの田村に耳打ちした。
「いいこと思いついた。あいつにボール、ぶつけてやろうよ」
「…いいよ、やろう」
2人で顔を見合わせてニヤリと笑う。
ここ最近イライラすることばかりだったアザミは、少しでも鬱憤を晴らそうと大嫌いな如月を標的に選んだ。