第11章 第十一話
倒れこむ瞬間咄嗟についた掌にもうっすらと滲んだ血を見て、如月はいつになったら解放されるだろうか、とぼんやり考えた。
明日七海が心配してしまうから、出来るだけ傷が目立たなければいいけれど、と彼女達からの暴力を甘んじて受けようと心を決めた時、低い声が飛んできた。
「お前らよってたかって何やってんだ!」
上から降ってきた声に目をむければ、知念が女の子達に怒りを向けているところだった。
今まで見たことのない顔で怒っている知念に、如月は倒れこんだまま驚いた表情で知念を見つめた。
(助けに来てくれた――知念君が…)
思わず嬉しくなってにやけそうになる顔に、今はそんな場面ではないと言い聞かせた。
知念の表情と気迫に恐れをなして、取り囲んでいた女子達は小さな悲鳴をあげて、その場から走り去って行った。
少し離れた場所から捨て台詞のようなものを吐き捨てたようだったが、如月に聞き取ることはできなかった。
彼女の意識はすでに知念の方に向いていた。
「大丈夫か、如月」
「…うん、平気。ちょっと擦りむいただけ。…ありがとう、知念くん」
知念に抱き起されながら、如月は服についた砂をはらった。
血の滲んだ頬や膝を見て、知念の眉根がギュッと寄せられた。
こんな酷い仕打ちを何故彼女が受けなければならないのだろうか。
「…律儀に呼び出しに応じる必要はないと思うぞ…周りのやつらの言う事なんか無視しとけばいいさぁ」
「うん…そのうち、収まるから。大丈夫だよ。」
「こんな仕打ち受けておいて、大丈夫なわけねーんやし」
「でも応じないと余計長引いちゃうんだ。そのうち、飽きるよ、彼女達も…」
如月が言うのだから、そうなのだろう。
知念にはよく分からない理屈だったが、今呼び出しに応じておかなければ後々面倒なのだろう。
けれどこんな怪我をさせられてまで付き合う必要はないのではないか、と知念は思った。
「ただのイジメやっし、こんなの…真面目に向き合う必要はないと、わんは思う」
「…人の噂も七十五日って言うでしょ?それまではしようがないんだよ…まだこうやって面と向かって何かやってくるだけマシだよ?陰でコソコソされるより、ね」
「けど…」
「……もしかしたら、わざと傷ついているのかもしれない、私」
「どういうことだ?」