第11章 第十一話
七海の言葉に、一瞬知念は戸惑った。
何故いきなりそんなことを七海が問うてきたのか、知念は彼女の意図を量りかねていた。
「どう、って」
「…美鈴のこと、好き?」
「やーには関係のないことやし…」
それもそうだ、と七海は思った。
けれど美鈴のことをどうとも思っていないのなら、そんな返しはしないだろう、とも七海は思った。
知念も少なからず、美鈴の事を想っている――、その事実に七海はどこかホッとしていた。
「もし、知念君が美鈴のこと好きだっていうなら。ちゃんとあの子のこと守ってあげて。」
「…守る?」
知念の言葉に、こくりと七海は頷く。
強いまっすぐした眼差しで、知念を見つめる七海の目には、もう知念に怯えた様子はなかった。
七海にぎゅっと握られたカバンの持ち手が、くしゃりと形を変えていく。
「知念君も知っているでしょ。木手君のファンクラブの子達の激しさ。木手君が美鈴に告白した時も凄かったけど、今回はそれよりもっと凄いみたいなの。あの子は強がっているけど、だいぶ参ってると思う。だから…」
傍にいてあげて欲しい、と七海は力強くそう言った。
彼女の目にこもった想いを知念も受け止めざるを得なかった。
ああ、と短く答えて、知念は踵を返して部室へと向かった。
そんな知念の後ろ姿を見送りながら、七海は彼の淡白な答えに不安を覚えずにはいられなかった。
彼に自分の気持ちの半分も伝わっただろうか?
去りゆく知念の大きな背中に七海は念をぶつけるように視線を送り続けた。
ーーー
覚悟していたとはいえ、朝からひっきりなしに自分の元に訪れては嫌味を言っていく女の子達に、如月もうんざりしていた。
もう別れてしまったのに、何が気に入らないのか彼女達は如月につっかからずにはいられないようだった。
七海が言うには、木手くんを「フッた」という事実が彼女達の大きな関心事らしい。
別れたかどうかなんていうのは、あまり関係がないようだった。
告白されておいて、如月の方からフる、という木手のプライドを傷つけるような真似が許せないらしい。
如月にはその思考回路がいまいち理解できないでいたが、自分の目の前に現れては呼び出しをしてくる女の子達は皆一様にそんな考えに染まっていた。