第11章 第十一話
確かに自分は木手を振ったけれど、そのことがそんなに彼女達の怒りを買うことなのか、如月にはイマイチ理解できなかった。
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう、七海ちゃん」
笑って答える如月に、七海は彼女の強さにほっとしつつも、その強さが悪い方に影響しなければいいが、と思った。
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朝から如月の周囲は騒がしかった。
それは同じクラスの知念の耳にも目にも、嫌でも入り込んできた。
よそのクラスからわざわざ彼女の元にやってきては何か嫌味を言う女子がもう何人いただろうか。
当事者でない知念ですらいい加減煩わしく感じているのだから、当の如月自身はどれだけ煩わしいだろう。
彼女の心情を思って知念は同情の念を抱かずにはいられなかった。
放課後、クラスメイト達が次々と教室を後にする中、如月だけは何かを待つようにじっと自分の席に座っていた。
そんな彼女に七海は心配そうに本当に大丈夫?と何度も確認していた。
2人の様子を少し離れた自分の席から窺っていた知念だったが、急がないと部活に遅刻しそうだった為、後ろ髪をひかれつつも教室を後にした。
部室へ向かう知念を、廊下で呼び止める人物がいた。
小走りで近づく音がして、とんとんと背中を叩かれ振り向くと、如月の友人である七海の姿がそこにあった。
「ち、知念くん」
「ぬーやが?」
普段自分のことを怖がっているのか、あまり近づいてこない七海がわざわざ自分の後を追ってきたことに知念は少なからず驚いていた。
如月のそばにいてもあまり自分と目をあわせることのしない彼女が今はじっと自分を見つめている。
ただならぬ雰囲気に知念は何事かと七海が発言するのを黙って待っていた。
知念のそんな態度に七海は知念の機嫌が悪いのかと少し怖気づいたが、友人の危機に際してそんなことに構っていられない、と勇気を振り絞った。
「あ、あのね。美鈴がまた呼び出されたんだ」
「…そうか。」
「そ、そうかって…心配じゃないの?」
「…心配やし」
言葉とは裏腹に表情一つ変えない知念に、七海はやはりこの男のことが掴めないでいた。
きっと如月なら、今知念がどんな気持ちでいるのかはっきり分かるのだろうが。
「あのさ…知念君って、美鈴のことどう思ってるの?」