第11章 第十一話
「…大丈夫ですよ」
「永四郎、キツイ時は愚痴でもなんでもこぼせ。聞くくらいだったら、わんにも出来る。一人でため込み過ぎるなよ」
「…甲斐クンに心配されるとは俺も大概ですね」
はぁ、と深いため息をつく木手に、甲斐はいつも以上に大げさに声をあげた。
どこまでも強がっている木手の姿が、甲斐の目には逆に痛々しく映っていた。
「何だよソレ!人が心配してんのに」
「…冗談ですよ。ありがとう、裕クン。君はいつも…」
俺が辛い時にそばにいてくれる、と木手は思ったが、その言葉を口にすることはしなかった。
甲斐に感謝はしていたが、みなまで言ってしまうのは、どこか気恥ずかしかったのだ。
甲斐は久しぶりに木手に下の名前を呼ばれたことが嬉しくて、そのことばかりに気がいって、木手が言いかけた言葉を気にすることはなかった。
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「如月さん、ちょっと後で来てくれる?」
翌日、朝から如月を待っていたのは、予想通り木手のファンの女の子達だった。
七海は如月と木手が別れたことを口外はしていなかったが、どこから漏れたのか瞬く間に噂は広がり、あっという間に誰もが知るところとなっていた。
こんな風に呼び出されるのは、半年前、木手が如月に告白した時以来だった。
「逃げないでよ。…分かってるよね?」
「うん…」
睨み付ける彼女達に、如月は素直に頷いた。
逃げようとしたって、彼女達が逃がしてくれるはずもないことは、よく分かっていた。
彼女達の気が済むまで、しばらく付き合わなければ、いつまでもこんな状態が続くだろう。
いつか彼女達も自分を構うことに飽きるはずだ。
その時が来るまで、じっと我慢することを如月は選んだ。
変に反抗の意思を見せると逆に彼女達を刺激して余計事態が悪化するだろう、と思ったのだ。
「早速呼び出し…?美鈴、大丈夫?ついていこうか、私も」
「ううん、大丈夫だよ。しばらくしたら収まるだろうし……もう前ので慣れたよ」
「…でも今回は、さ…」
木手くんを振ったんだから、余計にひどくなるのではないか、と七海は心配していたけれど。
木手のことを好きな女の子達からしたら、木手と別れた自分のことなどどうでもいい存在のような気が、如月にはしていた。