第10章 第十話
甲斐の言葉に平古場も田仁志も疑問符しか頭に浮かばなかった。
平古場の問いに、甲斐は苦々しい顔でつぶやいた。
「………あにひゃーぬ所為で、永四郎は別れたんやし…」
「はぁ?何よ、急に。何で寛の所為なんだよ」
要領を得ない甲斐の話に、平古場は眉根を寄せて首をかしげた。
ちゃんと順を追って説明しろよ、と田仁志も口を挟んだ。
「…寛、如月ぬことしちゅんやんばーよ(好きなんだよ)」
「え、しんけんか?(マジか)あれ、冗談じゃなかったのかよ?!しんけんしちゅんやしな(マジで好きだったんだな)…でもそりが二人が別れる原因になるだばぁ?」
「寛が如月に何かしたんだろ。あにひゃー、いつも如月ぬこと見てたし」
甲斐の言葉に、平古場の頭に如月の姿を見つめる知念の姿が浮かんだ。
確かに甲斐の言うとおり、あの二人は見る度一緒にいたし、知念はよく彼女を目で追っていたような気がした。
それでよく甲斐と一緒になって知念をからかってもいたが、それだけで木手の失恋を知念をせいにするのはどうかと平古場は思った。
「おいおい裕次郎、決めつけてやるなよ。それに仮に寛が如月に何かしたにしても。如月も寛の気持ちに応えたってことだろ?だったら別に寛だけのせいじゃねぇだろ」
そう平古場に言われて、甲斐はハッとした。
確かにいくら知念が如月に想いを寄せたにしても、如月がそれを気にしなければ、木手と如月の付き合いは続いていたはずだ。
頭のどこかでは知念が悪いわけではないと理解しているのに、甲斐はなかなかそれを認めたくなかった。
「…裕次郎、お前『馬に蹴られて死んじまう』んど。」
田仁志が先ほど使い間違えた言葉をドヤ顔で言うものだから、甲斐はその顔に無性に腹が立ってしまった。
「うるせぇな…永四郎があんなに好きになったのなんて初めてだったんだぞ。それを横から攫うような真似、がってぃんならんよ(許せねぇよ)」
握りしめた拳を震わせながら言う甲斐に、田仁志も平古場もしばし無言になった。
沈黙をやぶったのは平古場で、怒りに震える甲斐の肩に手を置きながら、言葉を紡いだ。
「裕次郎…お前の気持ちも分からなくもねーんやしが…こういうのは当人達の問題だろ。外野がとやかく口を挟むことじゃないんど」