第10章 第十話
「本当だ。」
「じゃあ如月に何かしたか?」
知念の返事を聞いて、甲斐は間を置かずにまた知念に問うた。
矢継ぎ早に繰り出される甲斐の質問に、知念はほんの少したじろいだ。
「…何も、してない…」
「それも本当か?永四郎と如月が別れたのは、やーが原因なんじゃないか?」
甲斐は知念の言葉に焦れたのか、核心に触れてきた。
2人の別れの原因が自分にあるのかどうか、知念には判断が付かなかった。
確かに自分は如月に気持ちを寄せていたし、如月も少し揺れているようにも見えた。
けれどどちらもそれ以上踏み込もうとはしていない。
「…分からない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「…やー、如月のこと好きだろ。隠してたって、俺には分かるぜ」
甲斐にそう言われ、知念は、はぁ、と小さくため息をついた。
彼にさえ分かってしまうくらいだから、木手にも如月にも自分の気持ちは前からバレバレだったのかもしれない。
そう思うと、必死に気持ちを押し込めていた自分は一体何だったのだろうかと知念は少し空しくなった。
「わんには分からんさぁ。なんだって友達ぬ彼女を好きになるんばーよ…ぬーんち永四郎ぬ彼女なんばぁ?」
「…わんにも分からん!気が付いたらそうなってただけやっし!裕次郎にとやかく言われたくはない!」
攻めるような甲斐の言葉に、知念は思わず声を荒げて甲斐に反抗した。
甲斐に苛立ちをぶつけたってどうしようもないのに、知念は今まで我慢していた自分の気持ちを爆発させずにはいられなかった。
急に大声をあげた知念に驚いたように前を歩いていた田仁志と平古場が振り返る。
「どうしたんばぁ?」
「ぬーんちわじってんの(何怒ってんの)、寛」
こんな風に声をあげて怒りを露わにする知念の姿を目にすることはめったにない為、田仁志も平古場も状況が飲みこめず心配そうに知念を見た。
「…何でもない」
「いや、何でもないわけねーだろ…」
「悪い。今日はもう帰る」
平古場の制止も無視して、知念は足早に3人の元から離れて行った。
おい、寛!と呼び止める平古場を甲斐が制止して、ふるふると首を振った。
「裕次郎、やー、寛とぬーんでぃ(何て)話してたんだ?」
「あにひゃー(あいつ)ぬ所為やさ…」
「ぬーがよ?(何が?)」