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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第10章 第十話


「裕次郎、ひーじ(大丈夫)か?!」
「う…あ、あぁ…ちょっとぶつかっただけばーよ…」

そう応える甲斐の顔に浮かんでくる脂汗を見た平古場は、見せてみろ、と甲斐の手を足首からどかせてボールの当たった部分を覗き見た。

「腫れてるやっし!すぐ冷やさしーねならん(冷やさないと)!」
「甲斐クン、すみません。ぶつけるつもりは」
「当たり前やっさ~!わざとだったら、わん、がってぃんならん(許さねー)」

先ほどまでとは打って変わって心配そうな表情で甲斐の様子を窺う木手に、甲斐は痛そうな顔をしながらも笑って返した。
平古場に肩を貸してもらって甲斐は一旦コートの外へと出ることにした。
甲斐に木陰に腰を落として待つように促して、平古場は保健室に保冷剤を取りに走って行った。

休憩から戻るところだった知念は、校舎の方へ走っていく平古場を見て何があったのだろうか、と彼の姿を見つめた。
コートへと向かっていくと、コートそばの木陰に座り込んでいる甲斐の姿が目に入った。
休憩にしては様子がおかしいように感じて、知念はぼうっとコートを見つめている甲斐に声をかけた。

「裕次郎、どうした?」
「ん?あぁ、ボールが足首に当たっちまってな。ちょっと腫れてんだ」
「ひーじか?冷やすもの取ってすがや(取ってこようか)」
「今、凛が取りに行ってくれてるどー」

だからやーは早く練習戻れ―、と甲斐はひらひらと手を振った。
ちらりとのぞいた甲斐の足首が赤黒く腫れあがってるのを見て、知念は少し顔をしかめた。
平気平気、と甲斐は笑うが、いつもの元気が彼にないことを知念は感じ取っていた。
しかしいつまでもここに突っ立っているわけにもいかず、知念は無理するなよ、と甲斐に声をかけてコートへと戻った。

幾分か落ち着いた木手が、コートに戻った知念にちらりと目をやった。
二言三言知念に何事か指示をして、木手は他の部員の元へ向かった。
そのやり取りを見ていた甲斐はどことなく違和感を覚えた。

他の部員と知念とで、木手の対応が違うように甲斐には思えた。
どことなく知念に対してだけ、木手は遠慮しているというか、関わりを極力少なくしているように見えたのだ。

(なんで寛に対してだけ…?)
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