第10章 第十話
「平古場クン、なんですかその動きは!」
部活が始まる前から不機嫌なオーラを纏っていた木手に、部員達は今日の部活は荒れそうだ、と覚悟していた。
けれどその覚悟を上回る木手の厳しい指導に、レギュラーメンバーでさえ息も絶え絶えだった。
木手の厳しさに、顧問の早乙女ですら口を挟めないでいた。
どっかりとベンチに腰かけたままで、木手にあちこち走らされる部員を苦い顔で見つめていた。
「…なんか今日ぬ永四郎、しにわじってるやぁ(めっちゃイラついてんな)」
「ありゃあ如月と何かあったやんに」
「やんやー…間違いないなぁ」
ぜえぜえと息を切らしながら、すれ違いざまにこっそり甲斐と平古場はそんな言葉を交わしていた。
その様子を木手は目ざとく見つけ、二人に怒号を飛ばした。
「平古場クン、甲斐クン!二人ともお喋りする余裕があるならもっとキビキビ動いたらどうですか!」
そう叫ぶなり、傍らのカゴに積まれたボールを掴んで木手は二人に向けてスマッシュを打ち込んだ。
鋭い打球が音をたてて甲斐の足元に決まる。
跳ねかえったボールが後ろのフェンスにガシャンと大きな音をたててぶつかった。
振り返ると歪んだフェンスが目に入り、甲斐は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
息つく間もなく、木手がまたボールを打ち込んでくる。
今度は打球のコースが超変化をとげ、木手の得意技の大飯匙倩だと気付いた時にはすでにボールは平古場の足元に決まっていた。
木手が自分に教えてくれた技とはいえ、こんなにあっさりと決められるのは平古場にとっても悔しいことだった。
けれど、私情を部活に持ち込んで八つ当たりをする木手を見るのは初めてだった。
理不尽な八つ当たりではあるが、それに屈するのは平古場のプライドが許さなかった。
(八つ当たりでもなんでもいい、本気の永四郎と打ち合えるなんてそうそうないしな!)
笑みを浮かべて木手に立ち向かう平古場を、横にいた甲斐は不思議なものを見るような目で見つめていた。
「甲斐クン、よそ見している暇はありませんよ!」
鋭い打球が再び飛んできて、打ち返そうとした時にはボールは甲斐の足首にぶつかっていた。
痛みにうめき声をあげて甲斐はその場にうずくまった。
傍にいた平古場がすぐに駆け寄ってきて、声をかける。