第9章 第九話
アイスをかじりながら、甲斐は平古場に答えた。
口の端についた黄色い液体をぺろりと舐めて、甲斐はもう一口かぶりついた。
「そう。そろそろいい時期だろ。たしか去年も今くらいにやったあらんな?」
「今年は肉もっと増やそうぜ」
横から、誰もがアイスに夢中だと思っていた田仁志が口を挟んできた。
耳だけはしっかり甲斐達の会話に傾けていたらしい。
田仁志らしい要求にみな一様に笑った。
「…慧君、そんなんだから太るんだぜ」
「うるせー!それにこれは脂肪じゃねぇ」
「筋肉にしてはたぷんたぷんしてるやしぇー!(してるじゃないか)」
田仁志の膨らんだお腹をつまみながら平古場が笑うと、田仁志はフン、とそっぽを向いた。
「あ、今年は如月来ないかな?来たら永四郎すっげー喜ぶんじゃねぇか?永四郎に黙って誘ってサプライズしようぜ!」
平古場が言うと、甲斐はゆっくりと首を振った。
隣にいた知念はふいに飛び出た『如月』という単語にわずかに体を硬直させた。
幸い甲斐も平古場もそんな知念の様子には気が付いていないようだった。
「去年も誘ったけど、絶対行かないって言ってたぜ。怖いの苦手なんだと」
「去年はまだ永四郎と付き合ってなかったろ?愛しの彼氏が一緒なら喜んでくるはずさぁ」
先ほど知念が如月を誘った時と同じような思考回路の平古場に、知念は口を挟もうかどうか悩んでいた。
木手をエサにしても、彼女は喜んで参加することはないだろう。
あの後二人がどうなったのかは知念には分からなかったが、なんとなくいつもと違う雰囲気だった如月が普段通りに木手と過ごしているとは思えなかった。
「…そういえば、最近寛も仲良い感じだったやがや?よく3人で帰ってたろ?」
すっかりアイスを食べ終えてしまった田仁志は手についたアイスを名残惜しそうに舐めながら、知念に尋ねた。
急に話を振られた知念は少し驚いて、動揺を隠そうと冷たいアイスを一口かじった。
「…あー…仔猫拾って…猫見に家に来てたんだばぁ…猫、好きらしくて」
主語の抜けた知念の言葉にも、3人はふんふんと頷いて話を聞いていた。
付き合いの長い彼らにとってはこんな知念の会話も慣れっこになっていた。
「おー、寛んとこのチビすけ達がわんにも報告に来てたなぁ。灰色のチビ猫だろ。ここんとこ毎日一緒に帰ってたもんなぁ、知念達」