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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第8章 第八話


その先の言葉を聞くのが、木手はとても怖かった。
確かめるのが怖い。如月の言葉を聞いてしまえば、もう元には戻れなくなる。
頭では明確に彼女が次になんと言うか、その文字がはっきりと浮かんでいる。

けれど、そんな言葉を、彼女の口から聞きたくなんてない。

噛みしめた唇をぎりりとさらに強く噛んで、木手はただじっと彼女の宣告を待った。


「…別れてください」

無情にも告げられた如月の言葉に木手は激しく動揺した。
いつもなら大抵の動揺なんて平静を装ってしまえるその涼しげな顔も、今はぎゅっと歪められていた。

「知念クンと何かあったのですか?」
「何もないよ、ただ私の勝手なだけ」

今日の放課後、きっと知念と何かあったのだと、木手はそう思った。
それ以前に彼女一人で知念の家にいったあの日に、きっと二人の関係が変わるようなことがあったに違いない。
それが何なのか木手には分からなかったが、分からない方が幸せなのかもしれない、とちらりと木手は思った。

これ以上、傷つくのはごめんだ。

「俺の何が不満ですか?言ってください、直します」

そんなことで如月の気持ちが変わることはないとよく分かっているけれど、木手は言わずにはいられなかった。
如月の制服のシャツがくしゃくしゃになるのも構わず、木手は彼女の肩を握る手に力を込めた。
俯いていた如月がゆっくりと顔をあげ、悲しそうな顔で木手を見た。
ゆらゆら揺れる彼女の目は、それでもしっかりと木手を捉えていた。

「ごめん、本当に私の勝手なの。私の気持ちの問題。木手くんが悪いとかそういうんじゃない」
「なぜ、俺じゃダメなんですか?何が足りないんですか?」

気に入らないところがあれば教えてくれ、キミが理想とする男を演じることなど造作もないことだ、俺にはできる、できるから。
木手は心の中でそう叫んだ。
(だからお願いだから――、別れてほしいなんて…言わないでくれ…!)
張り裂けそうな胸を抱えて、木手は如月に懇願の目ですがった。

「…何、って…そういうんじゃないんだ。木手くんはとっても優しいし頼りになるし、素敵な彼氏だと思う」
「では何故!何故…」
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