第1章 第一話
彼女のことを深く知っているのは自分だけでありたい、と常々木手は思っていた。
それまで何人か女子と付き合ったことがあった木手だったが、そんな風に思ったのは如月が初めてだった。
それまでの歴代彼女は木手がそこまで思わなくとも、考えていることがあからさまに態度に、顔に、出ていた。
だから喜ばせることも悲しませることも、とても容易いことだった。
しかし如月は違った。
彼女の心をつかんだと思っても、次の瞬間にはスルリと木手の腕の中から抜け出てしまう。
如月と付き合って半年になるがいまだに彼女のことを把握しきれないことが、木手が彼女に強く惹きつけられている主な要因だった。
それなのに知念はそんな木手の苦労を知ってか知らずか、易々と彼女と呼吸を合わせている。
もしかしたらこれが『相性』というものなのかもしれない。
降りしきる雨の中で、傘に落ちる雨だれの音がやけに大きく木手の耳に響いた。