第8章 第八話
木手は内心では、今まで如月と知念がどんな会話をしていたのか、何をしていたのか気になって仕方なかったが、態度には億尾にも出さなかった。
「お待たせして申し訳ない。帰りましょう」
「うん…」
木手の笑顔が作り笑いであることを如月はひしひしと感じ、気まずい思いになった。
自然とカバンを握る手に力が入る。
(知念君と二人でいたこと、すごく気にしてるんだろうな…)
恋人としては半年の付き合いであるが、友人としては知念と同じ約3年の付き合いになる木手のことを、如月もある程度分かるようになっていた。
彼は自分の弱みを他人に悟られることが何よりも嫌いな人間なのだ。
その弱みを如月にさらけ出すことが出来ていたら、もしかしたら木手と如月の関係はまた違ったものになっていたかもしれない。
木手が今日楽しみにしていたはずの如月との帰り道は空気の重いものになっていた。
教室で知念と如月が二人きりでいたことがどうしても頭から離れない。
それに如月に話をふっても、彼女は軽く相槌を返すだけで、いつものように話が弾まないのだ。
木手が二言三言口を開いては、彼女が小さく相槌を打って、しばし沈黙。
また木手が口を開く、如月の相槌、沈黙。
そんな繰り返しに木手が次第に苛立ちを覚えはじめた頃、相槌を打つばかりだった如月がようやく会話を始めた。
「…そういえば、今日のお昼、早乙女先生に怒られてなかった?」
「あぁ…見られていましたか」
「永四郎がサボりって珍しいよね?何してたの?」
よりにもよって如月が聞きたいのはあのお昼の出来事だった。
知念にも関することなだけあって、木手の心は穏やかでなかった。
結局どこまでいっても彼女の関心は知念にまつわることなのだろうか。
もはや自分の方に彼女の心が向いていないことに木手は薄々感づいていた。
(キミのことで知念クンと言い合っていた…と言ったらキミはどんな顔をするんでしょうかね)
けれどそんなことを言ってしまえば、自分で彼女の背中を押してしまうような気がして、木手は言葉を濁して彼女の質問にはっきりと答えることはしなかった。
如月もそれ以上追及はしてこなかったが、歯切れの悪い木手の返事に納得のいかない顔をしていた。